恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜




どんなに言葉を尽くしても、どんな風に抱きしめても、真琴には自分の想いが届かないと高原は悟った。

その悲痛な面持ちは、テニスや授業をするときの明るさからは想像もできないほどだ。

高原は唇を震わせ、それを引き結んだ。そして、微かに頷くように目を伏せると、真琴に背を向け、教室を出て行った。



真琴は一人残された教室のまん中で、大きな溜息を吐いた。
同時に、高原を傷つけてしまったことに対する罪悪感が募ってくる。


古庄への想いと秘密の結婚のことばかりに気を取られて、高原のことを適当にあしらおうとしたことは否めない。

最初に告白された時に、もっときちんと高原と向き合って、もっと深く話をして理解してもらっていれば、高原もずるずると想いを引きずって辛い思いをしなくて済んだはずだ。



古庄が前に言っていたこと――。


「なまじ気を持たせると、後が厄介だ」


というのは、こういうことを言うのだろうか。

いつも古庄が女子生徒から告白されてそれに答える時のように、非情のようでも自分の気持ちをはっきりと表現しておくべきだったのだ。


あの時は、高原を傷つけたくないと、優しい言葉を選んで遠回しに答えてしまったが、それがいっそう高原を傷つけることになってしまった。



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