恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜



ホテルのロビーで皆を待っていた真琴にそう耳打ちしたのは、石井だった。

真琴は声もあげられず、ただ息を呑む。そして不安が、見る見るうちにその表情を覆った。


この旅行中、古庄と佳音が一緒にいるところを目にすることもなく、真琴は却って心がざわめかずに済んでいた。

しかし、その事実が、こんなかたちの結果を生むなんて。古庄に構ってもらえず、寂しさを抱えていた佳音は、古庄の気を引くために、最後の手段に出たのだ。
佳音自身それを計算しているわけではないのかもしれないが、佳音の古庄を恋慕う心がそんな行動に駆り立ててしまったのだと、真琴は思った。


不安と共に窓の外に目をやると、雪が降りはじめ、夕暮れも迫りつつある。
真琴は両手で顔を覆い、ロビーのいすに座り込んだ。

きっと古庄は佳音に対して責任を感じて、必死で探しまわっているに違いない…。
今すぐにでも傍に飛んで行って、古庄の手助けがしたいと思うけれど、今の真琴にはそれが出来なかった。
それに、残された者には残された者として、しなければならない任務もある。


――…大丈夫。森園さんはきっと無事に見つかる…。和彦さん…、早く帰ってきて……!



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