恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜




「……和彦さん……。早く帰ってきて……」



そうつぶやきながら、真琴は止まることのない涙を拭った。


この涙を止められるのは、古庄だけだった。
ただ、古庄が傍にいてくれさえすれば、真琴は他に何もいらなかった。




その時、玄関のドアを解錠する音が響き……、ドアを開けて古庄が入ってきた。


思いがけないことに、真琴は涙を拭うことも忘れて、居間の方へやって来た古庄を見上げた。


「…森園さんは、どうしたんですか?」


佳音の家まで行って戻って来るには、時間が短すぎる。


「…森園の家には、やっぱり行かなかった。石井さんに連絡を取って、代わりに行ってもらったから………」


説明しながら、古庄は真琴の顔を確かめて言葉を潰えさせ、更にじっと見つめ直した。



「……真琴……。泣いてたのか……?」



指摘されて、真琴の涙は止まるどころか、もっと一気に流れ落ちてくる。
古庄の顔を見て、安心しているはずなのに、体が震えて、嗚咽が込み上げてくる。



「…あなたが、森園さんを探しに行って、戻って来れなくなった時のことを思い出して……」


しゃくり上げながら、真琴がそう言葉を絞り出すと、真琴を見つめる古庄の目も切なくなった。


< 222 / 343 >

この作品をシェア

pagetop