恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜




廊下の方から人の気配を感じて、古庄は佳音が戻ってきたのかと思い、視線を移す。


視線を向けたそこには――、佳音ではなく真琴が佇んでいた。


きっと教室の見回りに来たところだったのだろう。その手には不要になったプリント類が携えられている。


真琴を一目見た瞬間に、古庄は自分の心を再確認する。


自分が何度も恋に落ち、愛している女性はこの人なのだと――。


佳音に激しい想いをぶつけられた直後だと、なおさら真琴への想いは古庄の心に沁みた。
ささくれだった心は瞬時に癒され、心を悩ます佳音の存在さえも忘れさせてくれる。


ホッと表情を緩めて、古庄は真琴に微笑みかけた。



しかし、古庄に優しい表情を向けられても、いつもそれに応える時に見せるはにかんだ笑顔を、真琴は見せなかった。

険しい感情を映した面持ちで、じっと古庄を見つめている。


その顔を見て、古庄は覚った。
先ほどの佳音とのやり取りを、真琴に聞かれていたことを。

今まで敢えて真琴には伏せていたその現実を知って、佳音の激しい想いを知って、真琴はどう思ったのだろう…。




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