恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜
「先生~。溝口くんって、有紀ちゃんの彼氏だよ~」
一緒にいた他の女の子がツッコミを入れると、有紀の顔はもっと赤くなる。
「あら!そうなんだ。知らなかったわ~」
文化祭の準備で急接近したとは聞いていたが、付き合うようになっていたとは。その微笑ましい事実に、真琴の顔も自然とほころんだ。
「…そ、それでね?先生」
自分のことから話を逸らそうと、有紀が真っ赤な顔をして話を元に戻す。
「佳音ちゃんが悲しんでいるだろうって、友達もいろいろ慰めてたりしてたみたいだけど、無視されてるって言ってた気が…」
それを聞いて、真琴は状況を呑み込むように頷いた。
確かに、幼い家族が死んでしまう悲しみは、それを経験していない者には共有できる感覚ではない。もともと心に壁を作っていた佳音が、その壁をもっと強固なものにしてしまったのも頷ける。
今、佳音が心を許せる相手は、古庄だけなのかもしれない。
友達と関わることがなくなった分、教室に居場所のなくなった佳音は、1日に幾度となく古庄のもとに姿を見せていた。
古庄も、不安定な佳音の精神状態に配慮して、よほど忙しい時でない限り佳音のおしゃべりに付き合い、佳音が望んでいるだろう言葉をかけてあげていた。