ふわふわ。

それは知らなかった。

と、言うよりも、いつも無表情に黙々と仕事してる倉坂さんしか知らないし。
この間、初めて話していても苦にならない人なんだと気付いたばかりと言うか。

鉄仮面と呼ばれてるのは有名だけれど、企画って営業ほど華がないし、仕事ぶりについては知らなかったかも。

確かに、同僚と話してる姿も見ないから、真面目に仕事しているんだろうな……とは、知っていたけど。

うーん。
人間って、本当に奥が深いわよね。

「よく、ご存じなんですね」

「僕らは、咲良さんと同じチームだし。倉坂さんも、ちょくちょく手伝ってくれてるし」

「へぇ……」

「山根さん」

「はい」

呼ばれて振り返った瞬間に、何か固くて丸いものを口に放り込まれた。

目の前には無表情の倉坂さん。

そして、手に持っているのは何かのお菓子の包装箱。

「チョコレートです。集中力を少しは持たせてくれます」

「……すみません」

口に広がる甘くて、微かに苦いチョコレート。
それを感じながら、微かに仕事に集中しろと言われた気分になった。

すると、同僚の一人が、身を乗り出して手を出す。

「倉坂さん。僕にもチョコ下さいよ」

「君はいつも集中力ないじゃないですか」

どこか、呆れたような声音だけれど、無表情の倉坂さん。

「山根だけずるいですよ~。僕、甘党なんですよ」

「疲れた時には甘いものがいいって言いますし」

どこか冷やかすようなニヤニヤ顔で、次々に延びてくる手が増えた。

あなたたちは子供か?

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