最後の恋の始め方
 「山室さん」


 「大学関係者とまさか、人には言えないような仲に?」


 山室さんは私の相手が、大学関係者だと思い込んでいるようだ。


 学生はほとんどが未婚なので、人目を忍ぶ仲となるならば、相手は教員関係者くらいしか存在しない。


 つまり、教授の誰かと不倫していると?


 全く無関係の先生に迷惑がかかったらまずいので、すぐに否定したかったけど。


 大学関係ではないと解れば、容疑者は自然と限定されてしまうので、それも憚られた。


 「理恵ちゃん。それで本当に幸せなのか?」


 やはり私が不倫していると思い込んだようで、山室さんは私を諭し始めた。


 「そいつとの人にはいえない関係のために、佑典との約束された将来を手放してしまって……。後悔してないのか?」


 「私、」


 「佑典を手放して得たそいつとの日々に、未来は見えるの?」


 「……」


 「どうして自ら、不幸を招き寄せるような真似をするんだ」


 山室さんは私の架空の不倫相手を作り上げて、私に正しい道を説く。


 私は「そいつ」と表現される箇所に和仁さんを思い浮かべ、胸を締め付けられる。


 佑典を手放して得た和仁さんとの日々に、未来は見えるのかどうか。
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