Sweet Lover
「朝食にしようか?」

カナさんを見送った後、まるで私の心を見透かしたように甘く笑って、短くなった髪を撫でながら響哉さんが笑った。

歩きながら響哉さんが聞いてくる。

「そういえば、昨日はどうして急に実家に帰りたくなっちゃったの?」

真綿を思わせる柔らかい声だけれど、その奥にしっかり包み込んだ鋭い針のような尖った気持ちが見え隠れする。

「絵を、描いてたの。
 でも、どうしてもパパの顔が思い出せなくて――。
 佐伯先生に頼んではいるけれど、あるかどうかわからないでしょう?
 ほら、お父さんなら絶対にパパの写真を持っていると思ったから」

「真一の――ねぇ」

響哉さんは、尖った気持ちが消えたのか、ふっと息を吐いて呟いた。
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