Sweet Lover
――でも。

最後の1ピースが欠けているから、私は行為に踏み切れない。

眉間に皺を寄せた困った顔の私を見て、我に返った響哉さんは手を止め、押し倒した私を抱き上げてくれた。

「――ゴメン。
 その――」

「大丈夫。
 響哉さんは待ってくれるわ。私の心の準備が出来るまで。
 ――そうでしょう?
 だって、私のお兄ちゃんだった人だもの」

「ズルイな、マーサは」

言葉とは裏腹に、響哉さんは目尻を下げていた。

「ズルくなんてないもん。
 キョー兄ちゃん、抱っこして」

私はわざと、小さな子供のように甘えた声でそう言った。

「いいよ。
 おいで、マーサちゃん」

この時ばかりは、響哉さんも、ただ子供を無条件に抱き寄せる父親のように、官能の色をゼロにして私を抱き寄せてくれた。

私の中で、何故かその時ようやく、記憶の中のキョー兄ちゃんと、目の前に居る響哉さんが、カチリと小さな音を立てて、重なった。
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