Sweet Lover
「大量にあるわけでは無いんですが――」

それでも、開いてくれたアルバムには、ママとパパが写っていた。

今まで薄っすらとした影でしか思い出せなかったパパの顔。

私の記憶を完璧にするのに必要だった、最後の欠片――。

少し気弱そうで、お調子者っぽくって、笑顔が素敵なパパ。

数枚の写真が引き金になって、私の脳裏に昔の映像がいくつもいくつも鮮やかに甦ってきた。

手を伸ばせば、届きそうなほど鮮明に。


「パパ――」

頬を滑り落ちる涙を隠すほどの余裕は、もう、なかった。


それは、淋しさや辛さがもたらした涙ではなくて。
ただ、溢れんばかりの記憶が、液体化して滑り落ちたかのように、温かい涙だった。
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