Sweet Lover
それなのに、私ときたら――。

「ほら、こうやって水をかけて。
 そう、それから、お花を供えて――。
 線香はここ」

皆が、私に手順を教えてくれるのが、くすぐったくて、そして、嬉しかった。


言われたとおりに、線香の匂いを鼻にしながら、お墓の前で手を合わせる。


パパ、ママ――。
遅くなってごめんね。
真朝だよ。
こんなに大きくなっちゃった。
分かる?
ねぇ、忘れていてごめんね。
思い出したから――。
もう、忘れたりしないから――。
安らかに眠ってね。


ぽたり、ぽたりと大粒の涙が下に落ちていく。
葬儀のときに、泣けなかった分まで、全部。


柔らかい風がそんな私を慰めるかのように、頬を撫でていった。
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