夏に咲く桜 海に広がる静空
夏に咲く桜
中学三年生。



夏休みに波の音と潮の香りに誘われて、私は人混みを抜け出した。

両親の心配など気にも掛けずに、ただひたすらこの二つだけが触れられる場所を探した。



人混みが遠ざかるにつれて、カツン、カツンと白杖(はくじょう)が地面をタッチする音が耳障りに響く。

今、自分が触れたいものに近付くたびに、触れたくないものを突きつけられる。

なんとも皮肉なものだと、思わずため息をついてしまう。


「危ないよ」


いきなり後ろから白杖を持つ右腕を掴まれて引き戻される。

声の主は男・・・の子とも呼べばいいのだろうか、父のような低く太いという声ではないにしろ幼い声ではなかった。


「ここから先はもうコンクリートじゃないから」


彼は私が持っている白杖の存在に気付いていて、そして、これを持っているという意味が分かっているのだろう。
< 1 / 24 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop