砂の鎖
「……なに」

「購買行けないんだよね!?」

「自分で作ったから大丈夫! いってきます」


私は構うことなく再び拓真に背を向けた。


「あず! 何言ってるんだよ! 弁当、置いてってるよ!!」

「……自分のは持ってるから」

「……え?」


慌てる拓真に苛々してしまう。
拓真は食卓に置いておいた弁当箱をもって私に呼びかけるけれど、そんなでかい弁当箱、私のなわけないじゃないか。


「じゃあね!」


気恥ずかしくなって乱暴にリビングのドアを閉めた。
バタンという大きな音が、拓真が感極まったように私を呼ぶ声を遮った。

閉まる直前に聞こえてきたのはあずが俺の為に作ってくれた弁当がどうとかこうとか……


……本当に、甘ったるくてすぐにおおげさに感動する。なんだかイライラする男だ。
昨日の生活指導室で見たあいつはやっぱり別人だ。
みんなきっと騙されてるんだ。

お弁当を作ってあげたことを少し後悔した。

どうしても昨日泣いてしまったことが冷静になると気恥ずかしくて。
謝罪が言えそうもない私の僅かな謝罪の気持ちを、拓真に倣ってキャラ弁で伝えようと思ったなんて、今朝の私はどうかしてた。

卵を星形にくりぬいて、ソーセージをタコのカタチに切り刻んで。

可愛く飾り付けした真ん中に海苔で『ありがとう』と書いたあの弁当を、今からやっぱり無かった事にしたいという衝動に駆られたけれど……


……でもどう考えても拓真は昨日、仕事を早退して学校に来た筈なんだ。
そして理不尽だと思いつつも私の為に頭を下げが筈なんだ。


それくらいのことは、いくらなんでも私だって分かってる。
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