LOVE SICK
(早く謝りたいのに……)


私の二度目のため息と同時についたエレベーターに少し気落ち乗り込んだ。

けれど次の瞬間、閉じかけたエレベーターのドアはガツンと何かに当たってその動きを止めた。


「川井。俺も乗せろ……」

「……斎木さん」


無理やりに閉まりかけたエレベーターに腕を押し当ててた人。

細身の長身によく似合うダークグレースーツの男性。
短髪に太めの黒い縁の眼鏡の奥の切れ長の瞳。

彼の格好はオシャレではあるが、少しチャラくも見える。
いつも割と爽やかさを売りにしている20代最後の一年を迎えた若手支店長が、その爽やかさを台無しに汗をかきながら乗り込んで来た。


「……おはよう、ございます」

「おう。おはよ」


暑いなとか、ヤバかったとかいいながらハンカチで汗を拭く彼に、何か言おうとして、やめた。


(ホント、最悪……)

「川井。朝から空気が重いけど、何の溜息?」


思わず口から吐いて出た溜息なんて、見逃してくれれば良いのに。
口角を上げて目を細めた彼の笑顔は友好的で優しい物でははない。

この人が売りにしている爽やかさは社外限定だったと思いだした。

舌打ちがしたい。

やっぱり今朝は最高の一日の始まりだと思ったのは間違いだった。
今日は、最低な一日の始まりだ。


「……別に。斎木さんには関係ありません」


吐き捨てる様に行った私の声は、思ったよりも低かった。
目を逸らして何も気にしてない振りをすれば楽しそうに声を殺して笑う彼の気配だけがした。


目を逸らした先ではオレンジの数字がゆっくりとカウントアップをしている。
エレベーターに乗ると、思わずみんな数字を追ってしまうのはどうしてだろう。

そして。
居心地が悪い時ほどそれは酷くゆっくりと数を数え上げるのはどうしてだろう……
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