LOVE SICK
「おい。待てよ」


書類を抱えてこっそりと移動したつもりだった私に目ざとく気がついたらしい。


「……なんですか? 契約なら更新だし、人増やすかもしれないって伺いましたからお説教はないですよね」


「るう。顔だけでたった一時間で惚れたんじゃないだろうな」


私の前を塞ぐ様に壁に手をつく彼に、書類を持った私は物理的にも逆らう事が出来ないから仕方なく視線だけで侮蔑の色を見せた。


「……バカバカしい。そもそも、そんなの支店長に関係ありません」

「るう!」


なんでこの人が苛つく必要があるのか……
本当に意味が分からない。


「……職場で、名前呼ぶのやめてもらえませんか?」

「……じゃあ、電話に出ろよ……」


落とされた声は、思いのほか弱々しくて……

けれど私は表情を崩す事なく睨み続ける。

……私はこの人のこの声色が、相手に取り入る為の手段だと知っている。
ほんの少しの弱さを見せて、油断した相手の懐に入り込む手段だと。


でもどうしてこの人が未だ夜中に時々電話を掛けてくるのか……
それは意味が分からない……


「バカにしないで。もう会わないって言ったのそっちでしょ?」

「るう……」


それでも、夜中にかかってくる電話が気になって、一人きりじゃ夜も上手く眠れないなんて……

そんな自分が、一番分からない……
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