水泳のお時間
「ねぇ知鶴は~?知鶴の初キスはいつ?」


そんなことを考えていたら突然わたしに話題をふられてしまい、思わずドキリとする。

するととたんにみんなからの視線がわたしに集中し、キャアキャアと騒ぎだした。


「うちも聞きたい!知鶴の初チュー話!」

「あたしも!」

「え、あの…」

「あー知鶴はね、残念なことに初チューよりも前にまず彼氏というものが出来たことがないんだよ。ね!知鶴」

「えっ!知鶴そうなの?!」

「えっ?あ…うっうん、うん…」


うまく答えられないわたしに代わり、

中学の時からの付き合いで、わたしのことをよく知っているマキちゃんが代弁する。


…こういうとき、何て言えばいいのか分からなくて一瞬戸惑ったわたし。

だけどわたしの返答を待ちわびているみんなの姿に、つい頷き返してしまった。


「そうなんだ~!知鶴ロリっぽくてウケそうなのに。ってことはじゃあ、まだ処女…むぐっ」


友達のアヤちゃんがそう言いかけたとき、マキちゃん達が慌ててその口を塞いだ。


そのままムグムグ言うアヤちゃんと、そしてそれを必死に阻止しようとするマキちゃんたちを前に

わたしは持っていたサンドイッチをとっさに袋に戻した。


「…ごめん。わたしちょっとお手洗い、行ってくるね」

「え?あ、ちょっと知鶴…?!」


やっぱり、こういう話には上手くついていけなくて。


何だか居心地が悪く思えてしまって。


わたしはまるで逃げるように立ち上がると、ハンカチを手に、教室を飛び出した。
< 102 / 300 >

この作品をシェア

pagetop