重ねた嘘、募る思い

「真麻ちゃんって彼氏いないの?」
「さあ、どうでしょう」
「この質問には絶対答えてくれないよね」
「うちの看護師をナンパしないでくれませんかね」

 コンコンと開いている扉をノックして回診車を押しながら入ってきたのは青野先生だった。なんとなく揶揄するような笑みを浮かべているのは気のせいじゃないはず。その背後から白衣姿が板に付いていない学生が数人入ってくる。

「あ、もしかして青野先生真麻ちゃん狙い?」
「さあ、どうでしょうね」
「青野先生には勝てないな。こんなイケメンドクター滅多にいないしさ」
「お褒めにあずかり光栄です。消毒しますね。学生も入らせていただきます」
「そっか、師長さんから話は聞いてるよ。どうぞ」

 寝そべったままパジャマのズボンを下げ、ウエルカム状態になっている鈴木さん。
 創処置でも学生が入ることを拒否する患者さんもいるので前もって話をしておくことになっている。
 鈴木さんの場合、傷は右太腿の付け根だから嫌がってもおかしくないのに気さくな人でよかった。
 カーテンを閉め、介助につくために回診車のそばに寄ると学生五人の中の一番後ろに醍醐くんがいるのに気づいた。醍醐くんは鈴木さんを神妙な面持ちで見つめている。
 どきどきしている自分が情けなく感じた。
 これは私にとっては仕事であり、醍醐くんにとっては大事な実習。こんなことで動揺していてはいけない。
 回診車をベッドサイドの右側に寄せて青野先生と向き合うように立つ。
 青野先生の後ろにはずらっと学生達が並んでいてその様子をじっと見つめている。こんなに見つめられて鈴木さんが緊張しちゃわないか心配だった。

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