婚約者の憂鬱



「いいところに来てくれたね、ジル。今、カインから金を巻き上げられたとこなんだ。
 さぁ、オレの仇をとっておくれ」

「なに、まるっと事実捏造してんですか。ハーベスト卿」

 さらりと嘘をつくアレックスを横目に、カインは迷惑そうに眉をひそめた。

 しかし、ふたりはすぐにジェラルドを見つめる。
 その精悍な顔立ちに、焦りが浮かんでいたからだ。

「どしたの、その顔。ラファールにまた負けたの?」

「それとも、いつもの無駄遣いがバレて姉君にどやされたんですか」

 悪友たちは口々に勝手なことを言うが、ジェラルドは神妙な面持ちを崩さなかった。



「……『紅灼竜(こうしゃくりゅう)の牙』が盗まれた」



 告げられたその一言に、アレックスは驚きに目を見開き、カインは思いきり顔をしかめた。






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