クリスマス爆発しろ
ぶっすー…

「いや、いや悪いと思ってるよ俺も。ほんと。娘の初クリスマスデートがまさかクリスマスに阻まれるなんてな…。うん。
でもお前去年まではめっちゃ協力的だったじゃん。むしろ率先してプレゼント配ってたたじゃん!そりゃ今年も期待するよね!
彼氏がいるとか知らないしね!!
高校に上がった途端彼氏とか……!
父は悲しいっ!」

むくれた娘を前にして、父はコロッケをおかずに白米をかきこんだ。

「そりゃそーよ!言ってないもん!
ねえ、いいでしょ!?私一人抜けたってそんなに変わらないよ!初めて彼氏できたんだから、今年くらい許してよ!」

「一人抜けるだけでどんだけ配達の負担が増えると思ってんだ!
あと個人的にクリスマスに娘と知らない男がイチャイチャしてるとか耐えられない!
だからダメです!!」

「後半が本音だろぉぉお!このケチクソ親父ィィイ!!」

ガッシャーン!

その日の晩御飯、我が家の食卓では罵声と怒号が飛び交い、ついでに茶碗が宙を舞った。

投げたの私だけど。

「うっうおお!あっぶねー!!
こらほのか!陶器はだめ!陶器はやめなさい!」

「うるさい!」

ヒュパァアン

続いて湯飲みが風を切る。
勢いに乗った湯飲みは吸い込まれるように
パパの眉間にヒットした。

「ぐっはぁ」

崩れ落ちるパパとスイッチするように、
放り投げられたお茶碗を拾っていたママが顔をあげた。

「ほのか。おかわりは?」

「……ください」

「はい、ちょっと待ってなさいね」

パタパタとなるスリッパの音。
二杯目のご飯をよそいながら、ママは言葉を続ける。

「あなたも年頃だものね。デート、行かせてあげたいけど、ね」

私はうつむいた。
いやわかってる。ウチは1年の中の明日が
本番みたいな一家なのだ。

ケーキ屋が明日行列で溢れるように、
ファストフードのチキンが飛ぶように売れるように、
サンタクロースを家業にしてるウチに、
明日がオフとかありえない。

眠る子供たちの枕元に、そっとプレゼントを置いていく。それだけの仕事と言ったらそれまでだけど、なにせ数が数だけに人手不足は深刻だ。

サンタは世界中に居るけれど、
この辺りの地域はまるまるウチの担当だから。

パパのさっきの叫びは後半が本音だろうが、
前半は事実だ。

……はぁ……

「……ワガママ言ってごめん。
大丈夫、明日ちゃんとやるから。」

もう、デートの約束、断っちゃってるし。


クリスマスなんて、爆発すればいい。
物理的に。


私は味噌汁を口にして、もう一度ため息をついた。






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