音の生まれる場所
「…フルートの音がする…」

囁くようなか細い声にハッ…として目が覚めた。

「今…なんて…?」

聞き返すお母さんの声は、朔には聞こえてなかったみたい。
うわ言のように言い続けた。

「真由のフルートが聞こえる…きれいな音だ…」

夢でも見ているのだろう。
そう思っていた。そしたら…


「…ごめん…待っててやれなくて…」

急に謝った。
怖くなって、大きな声で名前を叫んだ。


「朔!雄朔!しっかりしなさい!まだ逝っちゃ駄目よ…!」

何度も何度も声をかけた…。

朔は…混濁した意識の中、笑った…。

「母さん、大丈夫だよって、まるで、安心させるみたいに…」



泣きながら、何度も声を詰まらせて、お母さんが届けてくれた朔の最後の言葉…。


「…そんなこと…気にしなくて良かったのに…」


写真の中の朔…。
最後の最後まで、ずっと…私のこと思っててくれた…。

ずっとずっと…私が来るのを…待っててくれた…。
…苦しくて…ツラくて…不安で……私以上に寂しかったのは朔……あなただったのに……

(……そんな姿…ちっとも、見せなかった…)


薄れる意識の中、謝ることしかできなかった朔の悔しさは、どれ程だったろう。
会えないと分かった瞬間、どんなに病を恨んだか…。


だけど…

謝ったって何も変わらない。
この世に朔がいないことは、何一つ変わらない。

それなら…

謝らなくてもいい。
謝ったって、二度と朔は…戻って来れない……。


「謝らなくてもいい…朔が…悪い訳じゃない……!」


涙が溢れて止まらない。

心がどんどん干からびてく。

朔の最後の言葉を聞いて、更にカラカラに渇いてく……。




ーーー楽器の音は聞きたくない…。

ブラスに近づくのも嫌…。

もう二度と…朔と会えないから……。

辛いことは何一つ、思い出したくないーーー
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