音の生まれる場所
送別会が終わり外へ出ると、冬の天の川が夜の世界を彩っていた…。

「きれーっ…」

手を伸ばせば届きそうな星空。
その星の一つを掴んで、坂本さんに贈れたらいいのに…。

「小沢さんのフルート思い出すな…」

大きな花束抱えた人が、いつの間にか隣に立ってた。

「あの曲のこと、忘れないよ。君が僕を応援しているって語ってくれたことも。この星空のように日本にいてくれるってことも…」

「坂本さん…」

溢れ出しそうになる涙。慌ててくい止める。

「私も…貴方の語り忘れません…。朔が音の中で生きていると教えてくれたこと、胸に大事にしまって生きていきます」

ここで朔の名前を出したのはわざと。坂本さんに、嫉妬して欲しかったから…。

「ありがとうございました…。私を…音の世界に呼び戻してくれて…」

出会えて良かった…。

「この出会いに、ホントに感謝しています…」

目一杯の強がりで差し出す右手。
ギュッと握って、それから手放したい……。

包むように握られる。ホッとするようなあったかい手…。
あの夜と同じ温もり。

「行ってらっしゃい。お体に気をつけて。良い楽器が作れること、心から願っています」

「うん…ありがとう」

お互い何かを託すように、ギュッと力を込めた。
離れた瞬間、心がついて行きそうになる…。

ぎゅうっと握りしめて我慢する。
背を向けて歩き出す人…。
その背中に向けて、エールを送る。


「坂本さんっ!」

声を張り上げる。
ビクついてこっちを振り向く彼に笑顔で伝える。

「大好きよっ!」

仲間と別れる時、いつも言う言葉。
「さよなら」じゃなく「大好き」

私と時間を共有してくれてありがとう。
何もお礼できないけど、感謝していますの意味を込めて。

驚いたような顔。でも、理解したように花束を振り上げた。

「僕も、大好きだよ!」

溢れんばかりの笑顔。
朔の時とは違う。
また会おうねじゃない。

坂本さん…

私達…

きっとまた、逢えるよね。



本編 Fin
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