追憶のエデン
ゆっくり
ゆっくり
2人を乗せた観覧車が空へと登っていく。


お互い真正面に座り、外の景色を見れば、キラキラと輝くイスペラディティアの街が視界いっぱいに広がっていた。
それにすごく感動しルキフェルの方を見れば、優しい笑顔をこちらに向けるルキフェルと目が合い、何故か恥ずかしくて、掛けようとしていた言葉を飲み込み、目を逸らしてしまった。



「僕も初めてなんだ。」



えっ?と思い、逸していた顔をルキフェルに戻す。
けれど彼はこちらを見る事なく、外の景色を眺めたまま、話の続きをした。


「この街をこうやって観て回るのも、普通に遊ぶ事自体、僕には出来なかったから。
だからましてや誰かとこうしてデートするのも、全部初めて……。
まぁ、君と以外にこんな事したいなんて微塵も思った事なかったけど。」


街を眺めていたルキフェルの視線がゆっくりとあたしへと合わせられる。


「ねぇ、そっち行っていい?」



――ギシッ



そんな音と共に少し揺れた。


温かなルキフェルの熱に包まれた右手。
真剣な瞳。



「ねぇ、もう少しこのままでいさせて、未羽?」



もう直ぐ頂上に差し掛かる観覧車の中。
けれど何をするわけでもなく、外の景色を静かに眺める。



――でも、



重なるお互いの掌から伝わる熱。
煩く鳴り響く心臓。
少し掌に力が加わるのを感じれば、横を向いていても分かるくらい、耳まで真っ赤にしたルキフェルがいた。
< 23 / 114 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop