追憶のエデン
じっくり煮込まれたカラフルな野菜達とベーコンの旨味が溶け合ったラタトゥイユに、香ばしく焼かれたバケット。新鮮なフリルレタスのシャキシャキ感と生ハムの塩気が食欲をそそる。そしてグラスの中で可愛い気泡を作っては弾け、氷と一緒に戯れるのは、さっぱりと甘いアップルタイザー。


午後の木漏れ日の下、ルキフェルに誘われ、第二庭園で他愛もない話をしながら本日のランチを楽しんでいた。


いつ見ても思うんだけど、ルキフェルの所作は本当に優雅で綺麗だと思う。そしてこうして見れば、彼は童話の中に出てくる王子様そのもので、普通に食事をしているこの一時すら物語のワンシーンの様に見えてくるから不思議だ。



「ちゃんと僕の話、聞いてくれてる?」


その声にハッとすれば、ルキフェルはあたしの瞳を覗き込んでいた。完全に思考が斜め上に行っていた為、素直に謝るとルキフェルは「酷いなぁ。」なんて少し拗ねた様に見せた後、クスクスと笑いながら、あたしが聞いていなかったらしい言葉を再度話してくれた。


「来週あたりに休みが取れそうなんだ。
だからまた二人でデート、しようよ?」


何のお仕事をしているのかは良く分からないけど、ルキフェルは多忙だ。一日中あの執務室で次々に持ち込まれる書類全てに目を通し、何かを書き込んでいる。でもそうかと思えば、仕事でこのお城を空け、深夜に帰ってくる事もあるくらいだ。


だからこうしてデートの誘いを受けるのは本当にあの日以来。その為かルキフェルは何処か嬉しそうだった。


「ねぇ、何処行こっか?…イヴは何がしたい?」


指を絡ませ、上目遣いにあたしに尋ねる。
何がしたいかと聞かれても悩む……。ここに来て分かった事なんだけど、魔界には人間界にあるものは大概あったりする。だから当てずっぽうで行ってみたいと思った場所や、してみたいと思った事は出来る可能性が多分ある。少し考えていると、絡められた指先が先を促すかの様にルキフェルの指先が更に絡められ、あたしの指をゆっくりとなぞる。


意識をしない様に考えている姿を楽しみながらルキフェルはあたしから視線を離そうとしないため、内心余計にあたふたしそうになっていた。


しかし優しく細められていた瞳がだんだんと表情を消し、完全になくなった頃、さっきまであった木漏れ日が遮られ、誰かの影が落ちた。
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