好きになんか、なってやらない
 
「凌…太……」

「ほんと、お前の言うとおりだよ。
 俺はこのピアスを通して、いつか絶対に美空が俺のもとに戻ってくると信じてた。
 捨てずにお前の帰りを待って……」

「だからあたしはっ……」


「でもそれは、玲奈を好きになる前の話だ」



そう言って、俺は抱き着く美空の体を引き離した。



「玲奈があの会社に入社して、からかうつもりのだけだった対象がいつの間にか自分の生活の中心になってて……。
 落としてやるつもりが、自分のほうが先に落ちてて……。

 毎日必死になって、玲奈の一つ一つの言葉に振り回されてばっかで……。
 気づけば、俺の心の中は玲奈一色になってたんだよ。

 そこに美空はもういなくなってた。入り込む隙もなくなってた」


「……なんで……あの子なんて、普通の子じゃんっ……。
 人をバカにして、何一つ努力してなくてっ……」


「それが一番いいんじゃん。
 飾らなくて、いつも真っ直ぐで……。
 あ、べつに他人をバカにはしてねぇよ。ただ素直に物事を言ってるだけだから」

「……」


頭の中で、玲奈の像を思い浮かべて、自然と笑みが零れ落ちた。


憎まれ口ばかり叩く玲奈。
喧嘩を売ってると思われても、考えを曲げなくて……誰にも媚を売らない。


「俺自身が、カッコつけたり飾ったりしすぎてたから……
 だから俺は、正反対の玲奈に惹かれたの。
 あいつなら、俺の外見とかステータスとか、一切気にしない女だから」


そう……。

玲奈はいつだって、俺をミーハーな目で見たりしないんだ。
 
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