好きになんか、なってやらない
 
「ってか、今日はもっと拒否ってこないんだ?」


触れてほしくないとこを、ズバッと突っ込まれた。

自分でも実感している。
普段なら、こんな体勢にすら絶対にもってこさせない。

なのに今日の私ときたら、油断したうえに、岬さんを跳ね返そうとしていない。


「でもこれ以上触れたら、思いきり叫びます」
「おーこわ」


心の奥底で動揺しているなんて悟られたくなくて、極めて冷静に対応した。

岬さんはくくっと笑って、それでも離れようとしない。


「いい加減離れてください」
「嫌だって言ったら?」
「頭突きしますが」
「やめろし!」


しゃがみこんで、今にも飛び跳ねそうな体勢になって、ようやく離れる岬さん。

くるりと振り返ると、苦笑いして一歩下がっていた。


「ほんと玲奈は手ごわいなー。昨日ので、ちょっとは俺のこと、好きになってくれてると思ったのに」


好き……?
そんなこと、あるわけない。

ちょっと抱きしめられたくらいで……
いつもと違う口調で「可愛い」なんて言われたくらいで……

そんなこと……


「え……?」
「……」


途端に思い出された、昨日の光景。

思いきり反論してやろうと思ったのに、うまく言葉が出てこなくて、
代わりに熱がいっきに上昇したのが分かった。
 
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