SEL FISH

私が歩み寄ると、いのりちゃんが顔を上げた。

「おはよー、寒いね」

眠かったわけではないらしい。

春とはいえ、まだ夜明け前。薄暗いこの空間に、普段着だと寒いだろう。

「カーディガン、もう一枚持ってきたけど着る?」

「着るー、流石堂本さん」

カーディガンを着たいのりちゃんの後ろについていく。どこに行くのかは分からない。

「黙って出て来ちゃった?」

「みんな眠ってたから手紙だけ書いて出て来ちゃった。いのりちゃんの家は大丈夫?」

「うちはそーゆーの、放任だから」

きっと始発に乗って、ここの駅まで来たのだと思う。



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