孤独女と王子様
『"剛さん"でよろしいでしょうか』
「は、はい」

着物姿が似合っているお母さんは、僕の母さんよりも年は10歳近く下である印象。

由依ちゃんくらいの娘を持つ母親にしては、かなり若く見える。

『何か、お飲みになりますか?』

娘との関係をまだ説明できてない今のタイミングで初対面の僕にそう言えるあたりは客商売に慣れているな、と思う。

「いえ、僕は車なのでお構い無く…」
『でも、お腹空いたんじゃない?お母さん、何か用意できる?』

由依ちゃんが僕が来たサプライズの動揺は落ちついたようだ。

『モツ煮、食べますか?』
「ありがとうごさいます」

そのやりとりを黙って聞いていた舟さん。

『あっちに座りなよ』

と、指差したのは、由依ちゃんが座るさらに奥の席。

舟さんは由依ちゃんの手前の席に座っている。

『さっきまでお前の兄貴たちがいたんだぞ』
「そのようですね」
『由依との再会を喜ぶ中で、事前に色々口止めされて大変だったけど』

口止め?
あぁ、ケン兄さんと金澤のことか。
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