シーサイド・ティアーズ~潮風は初恋を乗せて~
 彼の苗字は当時、「弓長」(ゆみなが)だったけど、今は分からない。
 というのも、彼が島を離れた理由が、両親の離婚によるものだったからだ。
 後に私の両親から聞いた話だけど、彼は母親についていくことに決めたという話なので、きっと苗字は弓長ではなくなっているだろうということだった。
 ただ、具体的にどういう苗字になったのかは、私の両親も知らなかった。
 そして、そういう立ち入ったことを聞くほど、私の両親は、彼の両親と深い仲ではなかったようで……。
 もっとも、お母さん同士はよく話すことはあったらしいんだけど、「旧姓は何?」みたいなことはなかなか聞きにくいと思うし、仕方がないのかもしれないな……。

 彼が私に別れを告げた日のことは、当時の出来事にしては割とはっきり覚えている。
 激しいショックのためだろう。
 それは、肌寒くなりはじめた10月末頃のことだ。
 枯れ葉が目立ち始めた公園で二人遊んでいると、突然、「一緒に遊べるのは今日で最後だ」と彼が言ったのだった。
 一瞬、私は意味が分からず呆然としてしまったように記憶している。
 事情が飲み込めると、私は涙を抑えることができず、思いっきり泣き出したように思う。
 いつも明るかった彼も、その日はあまり笑顔を見せなかったので、私や他の友達との別れを惜しんでいることが、幼い私にもおぼろげに理解できていた。

 それにしても……どうして、その日に自分の気持ちを伝えなかったんだろう。
好きって言えばよかった。
 今になって深く後悔している。
 そして、もう取り返しはつかない……。
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