シーサイド・ティアーズ~潮風は初恋を乗せて~
 自転車に颯爽とまたがる蓮藤さん。
 その姿も実に絵になると思った。
 それに引き換え……。
 おっかなびっくりの私……。
 自転車に乗るのが久々なので、少し不安だったから。
「自転車、お嫌でしたか?」
 すぐに自転車から降りて、私を気遣うかのように近づいてきてくれる蓮藤さん。
「いえいえ、そういうわけでは……。ただ、ちょっと久しぶりなもので。乗れますよ、ほら」
 そう言って、私は自転車に思い切って乗ったんだけど……。
 ヨロヨロしてしまい、すぐに足を地面に着いた。
 うう……大丈夫かな。
「お気になさらないでください。では、大変失礼ながら……私の後ろに乗られますか?」
「え?」
 蓮藤さんの提案がすぐには飲み込めなかった。
 もしかして……二人乗りってこと?
「体力面では全く問題ございませんよ、ご心配なく。こう見えて、私はかなり体育会系なのですよ。それに、二人乗りをするということならば、この自転車ではなく、特別な自転車がありますから。少々、お待ちください」
 そう言って、自転車を押してガレージへと戻る蓮藤さん。
 まもなく蓮藤さんは、昨日私が見た、サドルが二つもある大きな自転車を押してきてくれた。
「これは、タンデム自転車というものです。普通の自転車で公道を二人乗りすると、違法となって罰金などが科せられる可能性がございます。ですが、こちらでしたら問題ございません。一応念のため、ヘルメットをどうぞ」
 へぇ~、タンデム自転車……初めて知った。
 私は受け取ったヘルメットを、おもむろにかぶってみる。
 蓮藤さんも手早くヘルメットを着けた。
「では、参りましょう。後ろのサドルへどうぞ」
 言われるがままに、後方のサドルに座る。
 何だか、全然「二人乗り」っぽくないのが、少し残念。
 ……。
 私、なんで残念がってるんだろう。
「気をつけてくださいね。腰を落ち着けて、しっかり乗っていてください。漕ぐのは、全て私に任せてくだされば大丈夫ですから、ご安心を。体育会系の底力をお見せしましょう」
 思わず、くすくすと笑う私。
 それにしても、蓮藤さんの自信に満ち溢れた態度を見ていると、不安など一切感じなかった。
 でも、別の意味でドキドキする私。
 いくら二人乗りっぽくなくても、こうして二人で同じ自転車に乗っているっていうことは同じだし。
「それでは、出発しますね。……おっとっと」
 走り出すとき、ちょっとよろけてしまう蓮藤さん。
 ふらふら止まる私たちの自転車。
 やはり、特別な自転車だから、運転が難しいみたい。
「大変失礼いたしました。もう大丈夫ですので、お任せください」
 蓮藤さんは安心させるように、言ってくれた。
「はい、よろしくお願いしますね」
 そして、今度こそ、私たちは出発した。
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