シーサイド・ティアーズ~潮風は初恋を乗せて~

烏丸さん

 別荘に帰り着き、着替えと身支度を整えた後、遅めの夕食をとった私。
 既に両親は食べ終わった後らしく、また、翔吾君を含め使用人さんたちは一緒に食べないというルールのため、一人ぼっちの夕食となってしまった。
 こういうの、つまんないな……。
 どこかお店に立ち寄って、食べて帰ったほうがよかったかも。
 でも、そんな我がままばかり言っていてはいけないと思い、我慢する。
 やがて、インターホンの音がして、私は驚いた。
 こんな時間に誰だろう。
 まさか、桜ヶ丘さん?
 でも、確か明日到着のはずじゃ……?
 食べ終わり、お皿を運んだ後、部屋へ戻ろうとする私。
 ところが、廊下へ出た途端、見知らぬ男性と鉢合わせとなってしまって、びっくり。
 その人は、私と同じくらいの年恰好で、背が高い人だった。
「驚かせてしまい、すみません。初めまして、烏丸冬嗣(からすま とうじ)と申します。峰霧雫様ですよね」
 ああ! 世話人の!
 この人が烏丸さん……。
 柔らかな口調が、実に印象的だ。
 そして、表情もすごく柔和だった。
 ルックスもなかなかのイケメンだ。
「こちらこそ、すみません。ええ、峰霧雫です。初めまして」
 私もペコリと頭を下げる。
 柔和な表情を崩さぬまま、烏丸さんは再び言葉を続けた。
「ご丁寧にありがとうございます。既にお聞き及びのことかと思いますが、桜ヶ丘さんの到着が明日になるということで、大変ご迷惑をおかけいたしております。一応、明後日より、お見合いを開始ということにしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「はい、問題ございません。明後日より、何卒よろしくお願い申し上げます」
「こちらこそ、よろしくお願い申し上げますね」
 深々とお辞儀をしてくれる烏丸さん。
 礼儀正しい人だと思った。
 まるで、秘書として働いている普段のショウ君みたい。
 こういう態度の人って、好感が持てるなぁ。
 私は軽く会釈を返した後、自分の部屋へと向かった。
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