今宵も、月と踊る

そのまま庭を眺めていると、ギシリとなった床が来訪者の存在を教えてくれた。

「志信くん」

名前を呼ぶと志信くんは照れ臭そうに、頬を掻いた

「外に出掛けないか?」

志信くんからの思いがけない提案に、首を傾げる。

「雨が降っているのに?」

「午後にはやむらしい」

天気予報が当てになるというのか。ここのところ、晴れの予報は見事に外れている。

「2時に迎えに来る」

彼は口を挟む余裕を与えることなく決定事項のように言うと、本宅の自分の部屋に戻って行った。

(外に行くって言った……のよね……?)

一瞬の出来事だったので咄嗟に反応できなかったが、確かに志信くんは外に出掛けると言っていた。

この家にやって来てからまともに外出するなんて初めてだ。

それも志信くんと一緒に出掛けることになるとは……。

普通の人と同じように街を出歩いている志信くんが想像できない。

目を閉じれば残像のように浮かぶのは、白の狩衣を着て華麗に舞う彼の姿だった。

“月天の儀”から何日も経っているというのに、私はまだ志信くんの“カグヤ憑き”としての一面を受け入れられなかった。

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