もう一度君の笑顔を

友紀side

営業の外回りから戻ると、彼と私が別れた事が会社中に広まっていた。



彼の有名人ぶりを痛感していると、更には、彼が私に腹を立てているという話まで入って来た。



何でも、彼はすっかりその気はなかったのにいつまでも私が放さず、あげくの果てには別れを切り出した彼を酷い言葉で罵ったというものだった。



その話を聞いて、胸が苦しくなった。



彼を罵った記憶は無いが、その気は無い彼に執着していたのは事実かもしれない。



そうか、やっぱり、他の子と食事に行き始めた段階で私は彼を諦めるべきだったんだ。



その事実を突きつけられ、まだ仕事をしているにもかかわらず泣きそうになった。



「友紀？」


パソコンに向かい作業をしている私に梨花が優しい声で話しかける。


涙を堪えたままそちらを見れば、私を気遣うように微笑んで言った。



「大丈夫？」



色々な意味が含まれているその言葉にさらに泣きそうになるがそれをグッと堪えた。



無言で頷いた私に、梨花は更に優しく微笑んだ。



よくよく周りを見れば、みんながチラチラと私を心配そうな顔で見て来る。



その優しさに泣きそうになった。



圧倒的に男が多いこの職場で、普段はそのデリカシーの無さに嫌になることもあるが、こういう不器用な優しさに心が救われる。



私を心配してくれる人がいる。



もう、何を言われても気にするのはやめよう。
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