もう一度君の笑顔を

梨花side

中野光輝が見舞いに来て、キスして帰っていった。


そう聞いたときは、軽く目眩がした。



ホント、あの男は何をやっているのだろうか。


今すぐにでも取っ捕まえて説教したいとこだけど、そうは行かない。


中野光輝はまだ友紀が記憶を取り戻した事を知らないのだ。


まぁ、知っててキスしたのなら、もうそれは取り返しのつかない阿呆としかいいのよが無いのだけれど・・・。



そんな事を考えていると思わずため息が出た。


「林さん?どうかした?」



しまった、聞こえたみたいだ。



「いえ、ちょっと考え事で・・・すいません。」


慌てて隣を歩いている野崎さんを見上げた。



中野光輝よりは低いものの、平均身長よりちょっと低い私からすれば野崎さんはかなり大きく見える。



確か、どっかの会社で部長をしている野崎さんは、私と同い年の友紀の叔父さんには見えない。



他の人なら、老いを感じさせる、白髪の混じった髪も、笑うと目尻にできるその皺も彼の色気を引き立たせる要因になっている。



「そう?それならいいけど?」



そのくせ、クシャと笑うその顔は、どこか幼さもある。しかも友紀に見せる穏やかな笑みは包容力に満ちている。



・・・・何考えてんのかしら、私。



思わず俯いたしまった。



野崎さんは、そんな私を気にする風でもなく進んで行く。



「友紀もどこか上の空だったね?」


その言葉に、私は顔を上げた。



バチッと野崎さんと目が合う。


「えっ・・・」


どう答えるべきかと戸惑う。



まさか、元カレにキスされて悩んでるなんて言う訳にはいかない。


野崎さんが来た途端、何でも無い様に装ったのは、知られたくないからだろう。



知らないフリをした方が懸命だろう。



「あ、そんなに警戒しなくても、鎌をかけた訳じゃないから安心して?

 友紀が上の空だったのは確実だから。」


その言葉に驚いてしまった。



平静を装う友紀は完璧だと思ったからだ。



それを上の空だったと見破るのは、付き合いの長さ故か、それもとこの人の能力か・・・



「友紀が上の空だった原因は・・・」


思わず身構えてしまった。


真っ直ぐに見つめて来る野崎さんから目が離せない。



その目は、友紀の前で見せる穏やかなものとは違い、全てを見透かされそうだった。


正直、ちょっと怖いと思った。

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