恋宿~イケメン支配人に恋して~
*6

19.小さなひび割れ






今日も忙しい、夏の終わりの朝5時半。

いつものように起きて、着物を着て、鏡に映った自分はどこか新鮮な見た目をしていた。



「……変じゃ、ないよね」



いつもの髪型、いつものメイク。だけどどこか感じる違和感の正体はきっと、髪色の違いのせい。

そう、真っ黒な髪のせいだ。



もともと規則の緩い会社に勤めていたこともあって、私はずっと明るい茶色の髪をしていた。

けれどここに来てから、周りの人は当然皆黒髪だし、忙しさから染めに行くのもおろそかになり……ついに観念して、髪を真っ黒に染めたのだった。



高校の頃に染めて以来黒髪になんてしなかったからなんとなく気恥ずかしいけれど……。これからもここで長く接客業をしていくのなら、という思いもある。

ひとつに束ねた髪に、よしっと気合を入れると朝の仕事に取り掛かるべく私は部屋を出た。





「おはよう、理子ちゃん……って、あ!髪染めたんだ!似合ってるねぇ」

「本当ですか?自分で見るとどうもカツラにしか見えないんですけど……」

「大丈夫、大丈夫。お人形みたいで可愛いよ〜」



朝食準備のため広間にやってくると、八木さんは一番に気がつき声をかけてくれた。

その声に箕輪さんたちもそろってこちらを見る。



「あら理子ちゃん、髪の毛黒くしたのね!」

「いいじゃない、日本人はやっぱり黒髪よねぇ」



評判は上々。染めてくれた美容師さんも『茶髪のほうが話しかけづらい顔に見えるかも』と言っていたくらいだし、もしかして私黒髪のほうが受けがいい?



「でも黒髪だと少し幼く見えるわねぇ。下手したら千冬くん、ロリコンだと思われるんじゃ……」

「ないですから」



話していると入り込んだその声に、箕輪さんは「あらやだ」と言いながらもニヤリと笑う。

その視線の先には、あらぬ誤解をたてられそうになって不機嫌そうな千冬さんの顔。


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