恋宿~イケメン支配人に恋して~





「……よしっ」



午前の仕事を終え、迎えたお昼。

休憩に入る皆の一方で玄関の掃除をしていた私は、戸を綺麗に拭き終え息を吐いた。



ドアも窓もピカピカ。やっぱり時々はこうして掃除しておきたいよね。

もっと時間があれば細かいところも掃除したいんだけど……ひとつ気になるとあれもこれも気になってしまう。



「……あのー、」

「へ?」



するとその時、不意にかけられた声。

なんだろうと振り向けば、そこには少し大きめのボストンバッグを持った女性がひとり立っていた。



私より少し年上だろうか。切りそろえた前髪に、セミロングの茶髪。

くりっとした目にピンクのチークが可愛らしいその人は、私を見てにこっと笑みをこぼす。



「突然すみません、新藤屋の方ですか?」

「え?あ、はい」

「やっぱり!よかった、合ってたー!」



お客さんかな。あれ、でも女性一名なんて今日の宿泊にはいなかった気がしたし、そもそもチェックインにもまだ早い。

お客さんじゃなかったら……誰?予想も出来ず、ついきょとんと首を傾げてしまう。



「あの、ちぃちゃんって今日いますか?」

「ちぃちゃん?」



って、誰?

どうしよう、大渕さんとか誰か呼んできたほうがいいかな。そう思った、その時背後のドアがガラッと開く。



「おい、理子。お前そろそろ休憩……あれ」

「あっ、千冬さん!ちょうどよかった!」



いいタイミング!

この人のことは千冬さんに任せて……と振り向くと、千冬さんは私の前にいるその人を見たまま固まっている。



ん?どうしたんだろ?

見れば一方では、その女性も千冬さんを見たまま固まっている。



「っ〜……ちぃちゃん!ちぃちゃんだー!!」

「うぉっ!」



かと思いきや、彼女は千冬さんの胸に飛び込むように思い切り抱きついた。

『ちぃちゃん』、千冬さんのことをそう呼んで。



ちぃちゃん……あぁ、千冬だから、ちぃちゃん。怖い顔のこの人が可愛いあだ名で呼ばれることもあるんだなぁ。

……ていうか、誰?



「ちょっと待て……何でここにいるんだ!?明日香!」



『明日香』

あすか、アスカって……、あれ、確か。



元、彼女……!?



って、えぇぇぇーーー!!!?







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