恋宿~イケメン支配人に恋して~



「ま、確かにあいつの方がキミと比べれば明るいし愛嬌もあるし?あ、あと胸もあるし肉付きもいいね。あれ、そう思うとキミ何もないんだねぇ、可哀想に」

「うるさいですよ!!」



って、折角少し見直したのに最終的に可哀想って言われた!!

悔しい、けどやっぱり反論出来ない……!

ぐっと言葉を堪えると、宗馬さんはふっと笑う。



「けど、元はそんな相手と付き合っていた奴が好きになるほど、キミにはキミのいいところがあるんでしょ」



私には、私のいいところ……?



「……ありますかね」

「うん。少なくとも、俺はそう思うけど」

「え?」

「不器用だけど一心なところ、可愛いよ」



『可愛い』……なんて、そんな。

宗馬さんから聞くとは思わなかったその言葉に、つい赤くなる顔を背けながら必死に笑って誤魔化す。



「は……はは、またご冗談を」

「冗談なんかじゃないけど」



けれど宗馬さんの声は至って冷静なまま。私の手にそっと触れたかと思えば、その腕は体をぎゅっと抱き締めた。



「千冬なんかに、渡したくないくらい」



ふわ、と香るのは千冬さんとは違う、甘い花の匂い。ごつごつと骨ばった肩や腕が、彼の細さを伝える。



「え……?宗馬、さん……?」

「もうさ、あれこれ悩むなら俺にしちゃえばいいじゃん。俺なら千冬みたいに元カノのことで悩ませたりしないし、不安にもさせない。沢山一緒にいられる」

「でも、」

「千冬の代わりでも、いいから」



耳もとで響く低い声は、願うように。



宗馬さんとなら悩まない?不安もなく、沢山一緒にいられる?

千冬さんの、代わりでも。



『私じゃなくたっていいじゃないですか!代わりなんているじゃないですかっ……』



……あぁ、そっか。千冬さんが怒った意味が分かった気がする。



代わりなんていない。比べたって意味がない。

不安になっても、気持ちを直接言葉にしてくれなくても、それでも好きなんだ。彼のこと、だけが。

私が求めるのは、あの腕のぬくもり。



「……何してるんだよ」



その時、突然響いたのは彼の低い声。

驚き宗馬さんと裏口のほうを見れば、そこには千冬さんが驚いた様子で私たちを見ていた。



事情は分からずとも、親友と恋人が抱き合っているという状況に、その目は段々と驚きから怒りへと変わる。



< 320 / 340 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop