恋宿~イケメン支配人に恋して~




「お先に失礼します」



定時の17時半を迎え、私は短い挨拶だけをして会社を後にした。



この後特別なにかがあるわけでもないけれど、好んで残業する趣味もないし、上司に飲みに誘われるのもごめんだ。

それらを逃れるべく、そそきさと帰る私をまた周囲は『可愛げがない』と言うだろう。



……なんとでも言えばいい。そんなことを気にするより、心は開放感でいっぱいだ。



駅までの道を歩きながら、バッグから取り出した青色のカバーのついたスマートフォンを見る。



受信メールは、0件。

慎からメールきてないや……一時間くらい前に、『今日も仕事のあと行くね』ってメールしたんだけど。寝てるのかな。

慎、休みの日はしょっちゅう『一日寝てた』って連絡取れないこと多いもんなぁ。本当、だらしない。……そういうゆるい感じのところも、嫌いじゃないんだけど。



思わずふふ、と笑って着いた駅で、足は自宅ではなく慎の家がある線の電車へと乗り込んだ。



私は普段は実家暮らし。家も会社から電車で二十分ほどの近い場所だし、とわざわざ実家を出る必要も感じられずにいる。

けれどそのうちのほとんどが、彼氏である慎がひとりで暮らすアパートに入り浸り。


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