愛結の隣に悠ちゃん


「愛結っ!!」

重い瞼をゆっくりと開ければ白い天井と涙を流す母と目を充血させた父が見えた。
ここがどこなのかは、鼻につんとくる薬の臭いで分かった。

「悠ちゃん……悠ちゃんは!?」

慌てて悠人の名前を叫ぶ。
そして、辺りを見渡すが悠人の姿が見当たらない。

「悠人は別の部屋……もうすぐね、目をさますの。愛結の方が早起きしたのよ、学校あるときに先に目が覚めるなんて、偉いわ……」

母が優しく頭を撫でる。
母の涙は止まらない。愛結にはわからなかった。
悠人はもうす目が覚めるって言っているのにどうして泣いているのか。
父の方を見れば立ち上がり、こちらには顔を向けないで目頭を押さえている。

「今日は、早く起きれたけど……お休みなの。愛結、いっぱい悠人に自慢しなきゃね。愛結の方が先に起きれたのなんて初めてなんだから」

「おい……」

母が愛結の肩を優しく抱いて言う。
その光景に目を向けるわけではないが、父が止めるように母に言う。

「ママ……ちょっとお手洗いに行くわね」

にこりと母が笑い病室から出る。
父と二人きりになるが、しばらくすると父も病室から出ていってしまった。

そして、微かに聞こえるのは二人のすすり泣く声。

「愛結っ!!大丈夫か!!」

「へっ……悠ちゃん……?」

しばらくぼうっとしていると、愛結の耳に届いたのは悠人の声。
声のする方を見れば傷ひとつもなく、いつもと同じようにしている姿であった。

「悠ちゃん……ママがね、悠ちゃんあと少しで起きるって……」

「母さん、愛結より先に俺が起きれないとでも思ってんだよ。ずーっと病室に隠れてさ待ってたのに」

悠人がふにゃりと緩い笑みを浮かべて言う。
久々に家以外の場所で悠人と話す。

それが、愛結には嬉しかった。


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