時雨と桜
嗚呼、矛盾。
此処は江戸、吉原遊郭。
きらびやか、色とりどりの着物を身に纏った女達。
色目を使う遊女、高嶺の花の花魁。
まさに男の天国。
郭言葉を使う遊女の中にまじって、煙管を吹くは、水晶。
水晶は、京の大名らしい。大名が吉原とは、笑わせてくれる。
私、紗綾は横目でその景色を見ていた。
水晶は、遊女の中で一番の人気らしい。
私とは大違いだな。
私は、遊女どころか、遊女の地位を下ろされ、今では雑用係だ。
こんなことをする為に、私は遊女になったのか?
金を稼いで、家族を養う為には江戸で一番儲かる、吉原で生きようと……決めたのに。
「ちょいと、そこの嬢」
水晶が私を呼び寄せた。周りにいた、遊女達の顔が強張った。
一人の遊女が水晶に耳打ちで、私にも聞こえるような声で呟いた。
「水晶様、あやつは遊女ではありんせん。しょうがないので、高価な着物を着せているだけです…」
それを聞いた水晶は私の傍に座った。
「……本当。そない、美人やないしな」
その言葉は私の心に突き刺さった。
確かに、他の遊女のように化粧をしている訳じゃない。
でも、しょうがないじゃない。
使えないし、私はもう遊女の座を降りたのだから。
こんなこと、言われて当然よ。
それが、私の定めだもの。