恋愛リハビリステーション

「あんまり会話したことないんで、てっきり認識されてないのかと」
「うちのカフェ人数少ないんだから、さすがにそれはないわよ」

ただ、そう、強いて言うならば。

「……あまり得意じゃないだけ」
「あ、俺のことっすか?」
「ううん、オトコノヒト」

過去になにか心に深い傷を負わされた、なんてドラマみたいなトラウマはないけれど。ずっと女子校育ちの私にとって"オトコノヒト"は未知の生物だ。
未知故に、それがひどく怖くて苦手。

「……それ、俺に言われても複雑ですね」
「まあそうよね、でも大丈夫。私面倒見はいい方だから」

困ったように苦笑する三嶋くんにすかさずフォローをいれておく。私だって今年で20歳になる。そろそろ大人としての自覚だってあるし、そんな私情で仕事を蔑ろにするつもりはない。
……ただ、確かに必要な会話しかしてこなかった気もするけれど。

「まあ、せっかくの歓迎会だし、主役の三嶋くんは楽しんでおいでよ」
「はあ、」

今年の4月に入ってきた新人さんは彼ひとりだけ。あのカフェはマスターの個人経営であるために、そんなに求人は行わない方針らしい。
私の学年も、私ともうひとりだけだった。


「とりあえず、奥に座ってるマスターには近づいちゃだめよ。いつも酔っ払って叩く力加減がわからなくなるから」
「ああ、さっきも誰か叩かれてましたね」

先ほど叩かれていた先輩を思い出したのだろう。未だマスターの横に座る先輩を視界に入れると、三嶋くんは先輩に同情するように眉を下げて小さく息を漏らした。


歓迎会という名の飲み会が始まって早1時間半。既にマスターやみんなは出来上がっていて、テーブルの上には食べかけの料理とグラスが散乱していた。
腕時計をちらりと覗き込んで、そろそろ片付けるか、と同じ種類の食器を重ねて端に寄せていく。



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