なみだのまえに
「……お参り、行こう」
私の手を引いて、ゆっくりと歩きだした樹に、うん、と頷く。
再び賑やかな人混みに戻ると、さっき並んでいたときよりも列が長くなっていて、やっぱり、恋人同士の割合も多くて。
でも、もうさっき感じたような悲しい思いも、泣きたいような心の痛みも、感じなかった。
……きっと、彼らにも私たちと同じように、いつかそれぞれの岐路に立って、それぞれの道を歩む日が来るのだろう。
中には、茉莉果たちと同じように、別れを選ぶふたりもいるかもしれない。
でも、きっと。
いつか別れが訪れるのだとしても、ふたりで過ごした時間は無駄なんかじゃない。
「なぁ」
長い列もだいぶ進み、あと数人を待てば私たちの番が来ようかという頃に、樹が話しかけてきた。
「なに?」
隣に立つ背の高い彼を見上げれば、樹は一瞬、視線を伏せる。
……これ、樹が照れているときの癖なんだけど、どうして今、照れることがあるのかな。
そう私が不思議に思っていると、再び視線を合わせてきた樹が、静かに口を開いた。
「……さっきは秘密にしようと思ったけど、やっぱり言うことにする」
「え!
何をお願いするか、教えてくれるの?」
さっきは、絶対教えてくれない雰囲気だったのに!