君が為

第一章

今にして思えば、私たちの運命は、あの日を境に動き出していたのかもしれない。



そうでなければ、あの信じ難い現実を誰も説明することなんて出来ないのだから。



ーーーーーー



「ーー美琴（みこと）」



名前が呼ばれる。



この声の主は、振り返らずとも誰だかは察しがつく。



私は、目の前に凛と佇む桜の木を見上げたまま、静かに目を閉じた。



ーー風が鳴いている。



春特有の甘い風が、私の髪を弄んで通り過ぎた。



「何してんだ、こんなところで」



さっきよりも随分と近くなった声に、私は漸く振り返る。



視線の先には、焦げ茶色の髪をした青年が一人。



「清春（きよはる）こそ……入学式はどうしたの？」



青年……清春は口元の笑顔をそのままに、肩を竦めて見せる。



「サボった。入学式なんて、出ても出なくても同じだし？」



「馬鹿……」



私は呆れたように溜息を吐くと、また満開の桜に目を向ける。




薄桃色の小さな花々。




皆から好かれているだけあって、この桜は私の癒しだった。