涙色に染まる鳥居の下で
奈津美
 12月15日、私はお兄ちゃんを自分の部屋に招いて、談笑していた。
 ふと飲み物が欲しくなり、お兄ちゃんに一言伝えてから中座する私。

 しばらくして、私が「ただいま」と部屋に戻ってくると―――。
 お兄ちゃんが何やら写真を、しげしげと眺めている。
 ああっ!
 あの写真は……!
「勝手に見てごめん。この人……彼氏?」
 無造作に机の引き出しへしまっておいたのが、まずかったみたい……。
 引き出しは開けられていない様子だし、多分はみ出してしまっていたのだろう。
 だから、お兄ちゃんは責められない。
 しかし、勝手に写真を見られて恥ずかしくなった私は、ついつい「勝手に見ないでよ~」となじってしまった。
「そうだな、悪かった。ごめんな。じゃあ」
 お兄ちゃんはそう言うと、そっけなく帰ろうとする。
「あ、待って!」
 お兄ちゃんがドアノブに左手をかけたところで、慌てて呼び止める私。
「気を悪くしないで。その……私は、全然気にしてないから」
「別に気を悪くしてないよ。ちょっと用事があって」
 お兄ちゃんは曖昧な笑顔を見せると、「じゃあ」と言って部屋を出て行った。

 それ以降、お兄ちゃんの私に対する態度がすっかり変わってしまったように、私には感じられた。
 何だか距離を置かれているような感じ……。
 朝のリビングで二人っきりになった折、私は単刀直入に理由を聞いてみた。
 恐らく、あの写真の一件で、私がなじったせいだと予想はついているけど……。
 どうして、あんな言い方をしちゃったんだろう……。
 今になって、深く深く後悔する私。
「気のせいだよ」
 お兄ちゃんはコーヒーの入ったコップを下ろさぬまま、曖昧な笑顔を浮かべて右手を振る。
「でも、以前より……何というか、壁を感じるの。何だか、わだかまりがあるような……」
「別に何もないってば。そんなに気になるなら、また今度どっかに出かけようよ。俺たちは血がつながっていないとはいえ、兄妹なんだから。変な誤解が起きたままだと、俺も辛いからさ」
 穏やかな口調でそう言うと、お兄ちゃんは立ち上がり、コップを置いた。
「それじゃ、行ってくるね」
 トマトを撫でながら言うお兄ちゃんに、「いってらっしゃい」と言葉を返す私。
 そして、お兄ちゃんはすぐに家を出ていった。
 トマトは、私たちの空気を察したのか、きょろきょろと落ち着かない様子をしている。
 そういえば、人間年齢で換算すると、お兄ちゃんや私よりずっと年上の「お姉さん」になるはずだから、心配してくれているのかな……。
 年齢とか、あまり関係ないか……。
 それはともかく、どうにかお兄ちゃんと仲直りしなくちゃ。
 せめて、以前みたいな関係に戻りたい。

 ………。
 でも、やっぱり……お兄ちゃんのことが好き。
 以前みたいな関係では、物足りない。
 血は繋がってないんだから……大丈夫のはずだよね。
 そして私は、日付を決めた。
 クリスマスイブ、地主神社にて思いを伝えようと。
 私はスマホ内のスケジュールのところに、しっかりと書き込んでおいた。
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