『好き』と鳴くから首輪をちょうだい
『それなら、犬になれ。俺の飼い犬としてなら置いてやってもいいぞ』


怒った眞人さんがそう言うと、驚いたことに梅之介は「やった」と言ったそうだ。


「『なにも持ってないから、僕って犬みたいなものだしね。だけど犬より役立つよ』とか言いやがった。そこまで話をしてると、こっちもだんだんまあいいかって気分になってな」


元々人手が欲しかったということもあり、眞人さんは梅之介を住み込みの店員として置くことにした。
顔もよく、(表向きは)にこやかで愛想の良い梅之介のお蔭もあって、店は益々繁盛することとなった。
今ではすっかり打ち解けて、仲良く暮らしている、と眞人さんは締めくくった。


「すごい始まりですねえ」

「うん。まあ、これも縁なんだろうなあ」


独りごちるように言った眞人さんはくすりと笑った。


「シロも似たような感じだよな。昨日の晩、すっげえ形相で迫って来られた時、不思議とクロの顔とダブった」

「あー……」


『すっげえ形相』という言葉に、消え入ってしまいたくなる位の恥ずかしさを覚える。酷い状態だった自覚は、十分あるのだ。


「もしかしたら、俺はこの子もこの家に住ませるようになるのかなあって思った。実は」

「え、そうなんですか?」


思いがけない言葉にびっくりしてしまう。目を丸くした私に、眞人さんは頷いた。


「うん。直感、ていうやつだろうな。でもそうやって暮らし始めたクロとはうまくやれてるし、この子とも多分大丈夫だろうな、とも思った」

「それは、何と言いますか……梅之介に、感謝ですね」


まさか、ここまで親切にしてもらうことができたのが、前例がいたからだったとは。
こんなことなら、さっきはもう少し梅之介に優しくすればよかった。


「だから、クロはシロがここに住むことに本気で文句は言えないんだ。自分も似たようなものだから、反対なんてできない」

「はあ、なるほど」


話している間にジョッキが空になる。

話も興味深いし、なにより料理が美味しい。
進まないわけがない。
そして、眞人さんは気付いたらふらりといなくなり、新しいジョッキを寄越してくれるものだから、ついつい飲んでしまう。

ああ、これからご厄介になるというのに、こんなにもお酒に溺れていいのだろうか。
だけど美味しい。

それから私たちは、長いことお話をしながら飲み続けたのだった。


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