『好き』と鳴くから首輪をちょうだい
*

「――辛気臭いことしてんじゃねーよ、ファンキーブス」

「あいた」 


ぽこんと後頭部を叩かれて、皿洗いをしていた手を止めた。


「何よ、梅之介。お皿洗ってただけじゃん」

「はーはーとため息ばっかりつきやがって。重っ苦しいんだよ」

「え? 私、ため息なんてついてた?」


全然気づかなかった。
コンロの前にいる眞人さんを見やると、苦笑しながら頷かれた。


「す、すみません。無自覚でした」

「別にいいけど、どうかした?」

「あ、いえ。別に」


頭の中にあったのは松子のことだった。
どうしたらいいのか、なんてことをぐるぐると考えていたので、それがため息となって零れ出ていたのだろう。 
曖昧に笑う私を見て、「ふうん」と言った眞人さんが、ふいに近寄ってくる。


「口開けて」

「はい」


言われるがままに口を開けると、押し込まれたのは甘辛く味付けされた鶏つくね。
軟骨が入っていて、ふわふわの中にコリコリとした触感がある。


「おいひい」


温かなそれをはふはふと食べると、笑みが零れる。
ああ、今は美味しい物を食べてるからそれでいいや、なんて考えてしまう。
そんな私を見て、眞人さんが「今日の賄にも、それ出してやるよ」と言う。


「わーい。やった」

「あ」


眞人さんがすいと手を伸ばしてきて、私の下唇の端に触れた。指腹がぐい、と動く。


「タレがついてる」


眞人さんの指先に、艶のあるタレがつく。彼はそれを、ぺろりと舐めた。


「じゃあ、もう少し皿洗い頑張れ」

「は、はい……」


赤面してしまったのは、仕方のない事じゃないだろうか。
そんなこと、さらりとしないでほしい。
しかしそんな私には気が付かず、彼は調理に戻っていた。
もぐもぐと口を動かしながらその背中を追っていると、「食いしんぼ」と声がかかった。


「腹が減ってたから、ため息ついてたのかよ。ガキか」


ふん、とあざ笑うかのように私を見る梅之介に、顔を顰めてやった。


「違いますー! 梅之介と一緒にしないでくれる?」

「僕は腹が減ったって、どうってことないね」

「あ、そうだよねー。梅之介は食欲じゃなくて睡眠欲の方が大事だもんね」

「うるさい」


むっと眉を寄せた梅之介だったが、昼寝が欠かせない体なのは事実なのだ。ふ、お子様め。


「お前の分のつくね、僕が全部食ってやる」

「うわ、ありえない。そんなこと言うなんて、どっちがガキなんだか」

「な⁉ バ、バカにすんな」


眞人さんのご飯を食べて、梅之介とくだらない口げんかをして。
そうしていたら、お布団に入る時には「明日も頑張ろう」という気分になっていた。不思議だ。
ふたりの存在に感謝しつつ、眠りにつく私だった。



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