裏道万屋の事情
教訓 7...

お金も必要だがそれ以上に大切なものがある。

あたしと嵐は徒歩で学校に向かう。


あたし達の学校(通う学校は違うけどほぼ同じ場所に位置)までの距離は万屋から歩いておよそ30分。

あたしは家から近くて徒歩で通えるという単純な理由で今の学校を決めた。

家と万屋は後から考えると案外近いため、必然的に万屋からも学校は近かった。

いやーマジ助かったぁ〜。遠かったら絶対朝起きれないもんあたし。


『嵐ってさ、一人暮らし??』

「うん。」

『そっかぁー大変だね。』

「もう慣れた。」


慣れた、って…。

今こんな普通に言ってるけど、嵐は子供の頃からずっと辛い事に耐えて生きてきたんだよね。

あたしと同じ年なのに、何か凄いな。

嵐に比べるのとあたしはかなり幸せにここまで生きてきたんだって事、今更ながら気付かされる。

確かに変わった両親を持ったかもしれないけど、何不自由ない生活であたしをここまで育ててくれた。

身近過ぎて気付きにくいけど、それが何よりも一番幸せな事なのかもしれない。
嵐と出会わなかったらきっとこんな事改めて考える機会は無かったかもね。

これを気付かせるために、神様はあたしを嵐と会わせてくれたのかな…??
なんて思ってみたりする。


「俺、小さい頃から孤児院で育ったんだ。」

『………うん。』


輝さんがあたしに教えてくれた嵐の過去。


「何で生きてるんだとか、色々思った。一時期引き籠もって、萌葱さん…孤児院の管理者の人にも凄い迷惑かけた。」

『…うん。』


嵐があたしに教えてくれる嵐の過去。


「でも、そんな俺を萌葱さんや輝さんや弘さんが支えてくれた。光を与えてくれた。」

『…うん。』


それは確かに、心が張り裂けそうな程の壮絶な過去。


「学校に行く意味や行くための勇気、一人暮らしをして社会で自立して生きていく大切さを教わった。だから…」

『…うん。』


けど―――


「だから、今。俺は俺を不幸だとは思わない。今の俺は幸せ。」


そんな過去に屈しない、大切なものを得た今の嵐はとても輝いていると、誰が何と言おうとあたしはそう思ったんだ―――。
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