語り話
「いやー。窓が開いてて助かった~」

なにも考えてない能天気な声が僕の右耳をくすぐった。

窓枠からゆっくりと腰を下ろすようにしておりると、彼女は自分をはたいた。

上半身が倒れるとその後ろから黒い物体が顔を除かせた。

独特な形をしたそれは楽器の知識が乏しい僕にもすぐにわかった。

ギターケースだ。

そんな大きな物を持ってよくこんなところまで…。

僕が関心と呆れで見つめているとやっと彼女と目があった。

「なはは…。ども!お邪魔しまーす…」

彼女は少し気まずそうに片手をあげて僕に挨拶をした。

「何してるんですか?」

そう聞かずにはいられなかった。

この人には多くの疑問が残りすぎている。

僕の興味が沸騰する前のようにふつふつと音をたてて大きくなる。

「んーと。木登りっすかね」

彼女は頭をかきながらニカッと笑った。

その時二、三枚頭に乗った葉っぱが落ちて、ようやく頭の飾りに気づいたようだ。

「木登りって…。入り口から入ってくれば良いのになんでそんな所から?」

頭の葉っぱを必死に取る彼女に再び疑問を投げ掛ける。

彼女は一度口元をひきつらせ、宙を仰ぎ頬をかきながら考えるしぐさを取った。

「んー。なんとなく?」

視線は明後日の方向で、言葉には何一つ信憑性にかけていた。

なのになぜか納得させるような力もあった。

この人にはそんな力があった。

たぶん何も考えてないんだろうけど、その行動にいったった理由は本当に"なんとなく"なんだろう。

僕は自分の中で勝手に決着をつけると彼女に視線を戻す。



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