婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
この間なんて、間違って「アキコ!」と呼ばれた。

それじゃ、なに?匠さんにとって私は恋人じゃなくて出来の悪い妹―――アキコさんには失礼だけど―――が一人増えたくらいの感覚ってこと?

そう思えば匠さんが私に対する態度は全て納得がいく。

疎まれてはいたが、出会ったころに見せた姿が本来の匠さんなのだろう。

エレガント、だけど底意地が悪くて超強引。それでいて情熱的。

キスした時の甘い痺れを想い出してしまい、私は慌てて身を引き離す。

いつから私は気を許し、匠さんに甘えるようになっていたのだろう。

以前なら警戒して自分からひっつく事なんて絶対にあり得なかった。

私の中でも男性としての意識は薄らいでいき『優しいお兄ちゃん』のような感覚が芽生えつつあるのも否めない。

「遥?本当に大丈夫?」

匠さんは私の肩に手を置き心配そうに顔を覗きこむ。

思いっきり唇を意識してしまい私は慌てて後ずさった。

「大丈夫…ホント、ちょっと楽しみ過ぎて動悸が乱れただけ」

そう?と言って匠さんは不思議そうに首を傾げた。

「こちらでよろしかったでしょうか」寡黙な運転主川上さんが車をゆっくり停車させる。

「ありがとうございます、川上さん」

私が一人百面相をしている間に、いつの間にか秘密の行き先に到着していたようだ。

川上さんは車から降りて後部座席のドアを開けてくれた。

「あ、ありがとうございます」私はペコリと頭を下げて車から降りた。

「こ、ここは…」

私が驚いて振り返ると匠さんはニッコリと微笑んだ。
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