婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「信じられない」

店を出ると私は膨れて、プイと横を向いた。

「よかったじゃないか。ニットも買ってもらえて」

「だけど、試着室って…ムードなさ過ぎ!店員さんにもバレてたし」

「じゃあ、試着室じゃなかったらよかったの?」

「そ、そうゆう事は結婚してからにしてください!」

「堅いねー」私が赤くなって困ってるのを見て、葛城はおかしそうにケラケラ笑う。

やっぱり変態だ。

「なかなか有意義なショッピングだった」と言って、葛城は腕時計にチラッと目を落とした。

「じゃあ、そろそろ行くよ」

「え?何処へ?」切り替えの早さに思わず、聞き返す。

「もっと一緒にいたかった?」

葛城が私の顔を覗き込んだので、私は警戒して後ずさる。

その様子を見て葛城はクスリと微笑んだ。

「あ、あの!今日は洋服ありがとうございました」

私はギュッと紙袋の持ち手を握りしめて頭を下げる。

「お礼はさっき充分いただいたから大丈夫」

私が噛みつきそうな顔をすると、葛城は愉快そうに笑う。

「じゃ、また学校でな」

葛城は私の頭を大きな手でクシャリと撫でると颯爽と夜の街へ消えて行った。

また、って…次に会うのはいつになるんだろう。

学校でっていったって、キャンパスは広いじゃない。

其処まで考えてハッと我に返る。

べ、別に会えない方が平和でいいわよ。

私はデッカい紙袋を抱えて大股で駅へ向かって歩いていった。
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