アオとミドリ
2

 放課後、一人で帰る碧をやっと捕まえた。
 極力自然体で。このタイミングを図るのにずいぶん時間がかかったのだ。
 「お前さあ、ひとりで帰ってんの?」
 睨まれた。気まずい。
 無言で歩き続けるしかない。
 すると、不意に、
 「……なんで、部活、やめた?」と碧が聞いてきた。
 今度は和樹が、睨……めない。
 
 とうとう『ばおばぶ』までついてきてしまった。
 ドアに『本日、臨時休業』の札。
 誰もいない薄暗い店内。
 碧が、カウンターの内側に周り、カウンター上にぶら下がっている明かりだけを灯す。
 バカみたいに突っ立ったまま、どうにも身の置き所がない和樹。
 碧の表情が和らいで見えた。
 救いを求めるように碧の方を見るのだが、どこを見たらいいのか分からない。
 すると、微かに顎でカウンターに座れ、と合図。
 それを察してカウンターの高い椅子に、登って座る。
 「なんか、食う?」と碧。
 「えっ、ああ、じゃあ、コーヒーとか……」しどろもどろの和樹。
 「いいよ、パスタとか、パフェとかでも」
 
 ガーリックとオリーブオイルの香ばしい匂いが、フライパンの鉄の匂いを添えて漂ってくる。
 カウンター越しに料理している碧は、和樹の質問に、一つ一つにおそろしく時間をかけて答えを出した。
 結果、今のクラスにも教師にも不満はあるが、ひとりで耐えていること、学校のバド部には、入部のとき先輩の態度が横柄で、やめてしまったこと、がわかった。
 「お前って、内弁慶なのな」
 「ウチベンケイ? なんだ、それ」
 「自分のテリトリーだとさあ……」
 こいつ、本当に言葉、知らないのか。「……強いってことだ」
 「ならいいや」
 目の前に差し出された皿。碧の手の平が見えた。マメが黄色くなっていた。
 グリップを握ると当たるところにできるマメだ。和樹にもある。
 ナポリタンは、聡子が作るのと同じ味がした。
 「強いんならいいじゃん」と碧。

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